可愛い女

可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)

可愛い女(ひと)・犬を連れた奥さん 他一編 (岩波文庫)

彼女は物静かな、気立てのやさしい、情けぶかい娘さんで、柔和でおだやかな眸をして、はちきれんばかりに健康だった。そのぽってりした薔薇いろの頬や、黒いほくろがぽつりとついている柔らかな白い頸すじや、何か愉快な話を聴くときよくその顔に浮かび出る善良なあどけない微笑やをつくづく眺めながら、男の連中は心のなかで『うん、こりゃ満点だわい……』と考えて、こっちも釣り込まれて顔をほころばせるのだったし、婦人のお客となるとついもう我慢がならず、話の最中にいきなり彼女の手をとって、うれしさに前後も忘れてこう口走らずにはいられなかった。――
「可愛い女(ひと)ねえ!」
(pp.95-96)